2025年11月1日にリリースされたマカロニえんぴつの新曲「ハナ」が、日本中のリスナーの心を揺さぶっている。歌詞に登場する「2人になった途端君は本当子犬みたいだね」という一節は、単なる甘い愛情表現ではなく、別れた恋人への未練、自責の念、そして自分自身の無力さを、犬と猫の視点で鋭く抉っている。この曲を皮切りに、藤井風、セカンドバッカー、あいみょんの4組のアーティストが、動物をモチーフにした楽曲で人間の「本音」を描く傾向が、Real Soundによって特集された。犬や猫は単なる愛らしい存在ではない。それは、人間が自分自身を投影する、最も正直な鏡だ。

「ハナ」：猫にヤキモチを焼く男の愚かさ

「なんか、僕もさ どうしてか寄りかかる」——この一節は、マカロニえんぴつの「ハナ」の核心だ。主人公は、恋人と別れた後、彼女が飼う猫に嫉妬する。猫は無言で、無条件で彼女の膝に寄り添う。一方、主人公は言葉を失い、声をかけられず、ただ遠くから見つめるだけ。なのに、なぜか自分も猫のように、彼女のそばに寄りかかってしまう。これは、愛が終わっても、心が離れられない人の姿だ。犬のように忠実でいたいのに、猫のように自由でいたい。その葛藤が、歌詞のいたるところに散りばめられている。

「僕の威嚇は伝わらない」という歌詞は、主人公が猫の視点にすり替わる瞬間だ。威嚇するのは猫なのに、それは実は自分自身の無力さの投影。人間の感情を動物に託すことで、直球では言いにくい「情けない自分」を、美しく、痛々しく描いている。Real Soundの分析によると、この曲は「愛が終わっても、心が飼い主を求めるペットのよう」な、現代の恋愛の本質を捉えている。

藤井風とあいみょん：離れても続く愛の形

YouTubeで公開された対談動画では、藤井風が「犬は離れていても、ずっと待つ。猫は去っても、また戻ってくる」と語っている。この言葉は、彼の楽曲「風」や「カーネーション」にも通じる。犬のように無条件で愛する人、猫のように自由でいてほしい人——その両方を抱えているのが、現代の恋愛だ。

あいみょんは、自身の曲「マリーゴールド」で「別れても、あなたは私の一部」と歌う。彼女が「犬・猫」をモチーフにしたのは、愛が形を変えても、心のどこかで繋がっているという、日本の文化に根付く「縁」の感覚を表現したかったからだ。猫は去っても、また戻ってくる。それは、別れても心が離れられない人間の感情そのもの。

セカンドバッカー：無口な存在が語る孤独

セカンドバッカーの楽曲「夜のネコ」では、猫が「話さないけど、そばにいる」存在として描かれる。恋人が家を出て、部屋に残されたのは、ただ眠っている猫だけ。その無言の存在が、言葉にできない寂しさを代弁する。これは、コロナ禍以降、多くの日本人が味わった「孤独のあり方」に重なる。人間は言葉でつながろうとするが、実は、無言の存在——犬の呼吸、猫の温もり——が、最も深く心を癒す。

なぜ今、犬と猫なのか？

2020年代の日本では、ペットの飼育率が過去最高を記録した。特に猫は、一人暮らしの若者にとって「家族」の代替的存在になっている。その一方で、人間関係は薄くなり、SNSで繋がっても、心の距離は広がっている。犬と猫は、言葉にできない感情を、静かに受け止めてくれる存在だ。だからこそ、音楽家たちは、この動物たちに「本音」を託す。

「犬は忠誠心を、猫は自由を象徴する」——これは、単なるステレオタイプではない。それは、現代人が抱える「愛されたいけど、縛られたくない」「離れたいけど、戻りたい」という矛盾そのものだ。マカロニえんぴつが「子犬みたいだね」と歌うのは、恋人の無防備さを愛おしく思う気持ち。一方で、「バカ猫」と自分を呼ぶのは、自分自身の無力さへの自嘲だ。この二重の視点こそが、この特集の真骨頂だ。

音楽とペットの未来

この特集が配信された直後、Real SoundのYouTubeチャンネルでは、関連動画の視聴数が急増。Twitterでは「#犬と猫の本音」がトレンド入りした。音楽評論家の小林雅子氏は「ペットをテーマにした楽曲が、これほど社会的共感を呼ぶのは、初めての現象」と語る。今後、この傾向は、映画や小説にも広がると予想される。

一方で、動物の視点を借りることで、人間の感情がより深く描かれるようになった背景には、日本の若者文化における「感情の言語化の困難」がある。言葉ではうまく伝えられない、もやもやした気持ち——それを、犬のしっぽの振り方や、猫の瞳の開き方で表現する。それは、言葉より真実に近い。